確かに優秀な同僚だったが

前部署に異動したのは、私ではなく、現部署の同僚だった。恐らく私が入院中に本人が希望したのだと思われる。

入院前に、同僚には私が前部署に左遷される可能性を愚痴っていたため、同僚はあたかも自分が突然左遷されたかのような振る舞いをしたが、数々の証言から、入院中に、私が退院したら出戻り異動する予定のポジションを部長に打診して自分がそのポジションを獲得したと思われる。

彼女は前部署の経験値はゼロであるが、習得能力は高いので、特段問題はないだろう。問題があるとすれば、人間関係だけだ。私は前部署の連中とは史上最悪の人間関係だったので、どんなに前部署の仕事でパフォーマンスを発揮できたとしても、二度と関わり合いたくない連中だっただけに、ラッキーだったのかも。

 

同僚には、私が前部署の最悪な人間関係についてこぼしていたこともあり、先日、人間関係や前部署の仕事内容について私に探りを入れてきた。

私は現在禁酒しているため、終業後、ファミレスで話すことにした。

頭の良い人だと、こういう状況の時、どういうスタンスで、何を話すのだろう。

私は政治的駆け引きが不得手なので、未だに不器用にしか話題を展開できない。直情的に、自分の不快な感情をぶつけるだけぶつけるようなことしかできないようなタイプだ。

以前から同僚に関して、把握できたのは、私と同様、外資系企業の風土に馴染んでしまったため、日本の会社組織の典型である同調圧力集団主義付和雷同の空気に辟易としていることだ。そのくせ、会社にはやたら期待している。口先では、「会社も人も何も期待していないから、生活のためだけに割り切って働いている」と吹聴している割には、常にやりがいのない仕事にも、最悪な人間関係にも、性善説で期待しては裏切られて失望し、ストレスを貯めるという悪循環を繰り返している。

プライベートでも、ヨガやマクロビや海外秘境ツアーやハワイやフラダンスなどに瞬時でハマり、それぞれの講師やツアーガイドを目指すかのような熱中ぶりを見せながら、数カ月後には、不平不満や愚痴をこぼしはじめる。そして、全ての物事を成し遂げられない。本人もそのことは充分自覚している。熱しやすく冷めやすいと言えば聞こえはいいが、対象にハマる時には盲目的に好きになり、メリットやデメリットを一切考慮しない。そして、熱が冷めた頃に、一気にデメリットを見出し、対象から離れていく。その盲目的で移ろいやすい性格には、不快を覚えることがままあった。恋愛も同様のスタンスなので、入れあげるのは早いが、すぐに別れる。

今回の異動も、今の部署の仕事に熱が冷めて潮時になったから、自ら希望したのだと憶測する。

同僚は、私の前部署の最悪な人間関係に関する記憶は完全に忘却していた様子だった。そして、異動先の仕事に多大な期待を寄せている雰囲気だったので、底意地の悪い私は、過去に発生した責任の擦り合い、足の引っ張り合い、最悪な人間関係についてのみ、話すことにした。

 

このような私のスタンスは、頭が悪すぎるのだろうか?もっと賢い人は、リクナビのサイトのような、上っ面の偽善だらけの美しい人間関係や、やりがいのある業務内容について語り、相手の期待を裏切らないようにするのだろうか?

 

ファミレスの同僚との会話は、何ら生産性もなく、私の一方的な過去の恨み節だけで終わってしまった。私としては、マイナス面を吐き出したため、スッキリしたが、期待をしていた同僚は気分を害しただろう。話の途中で、そろそろ帰りたいと促してきた。

しかし、帰宅してから、同僚に対して、過去にないほど不快感や不信感を抱いている自分を強く意識した。結局、彼女は、私から何を引き出したかったのか、見えなかった。耳障りの良いことを話して欲しい訳でもなく、ネガティヴな材料を忠告して欲しい訳でもなかったようだ。

一応、同僚は私とは異なり、誰とでも仲良くできる八方美人なので、私なりに、貴女ならどんな部署でも大丈夫だとフォローしたのだが、そんな台詞は余計なお世話だと言わんばかりの態度だった。また、私は前部署の方が仕事を任されていたのは事実だったので、険悪な人間関係さえクリアーすれば、やり方によっては、前部署でのキャリアも悪くないと、ホンネをしっかり伝えた。しかし、そのフォローに対して、同僚は怒り口調で反発してきた。

「私はキャリアなんか形成したくない!そんなものは何も期待していないんだよ!終日ネットサーフィンするだけで今の給料を貰える環境を築くことが、私が本当に望んでいること」

以前からの同僚口癖だった。ずっと看過してきたが、明らかに欺瞞を感じる発言なので、「本当の本音か?」と突っ込んでみた。

 

同僚は本当の本音だと突っぱねた。

 

申し訳ないが、こういうタイプの人とは、付き合わない方がいいと直感的に感じた。

閑散期に暇を持て余しているのは明らかなのに、そういう時に限って忙しいと吹聴したり、部署内で非常に相性の悪い人に対して、彼はとても細部に良く気が付く素晴らしい人物だと吹聴したり。要するに、自分にとってネガティヴな事象が発生したとき、必ず真逆のことを述べて、自分が不快な状況であることから逃避しようとするホラ発言が頻発するのだ。

他にも、部署の人と口論して仕事をこじらせていた相手がいたので、後日私がそのことを心配したら、「彼は実は話せば分かるとっても良い人なの」と咄嗟に誤魔化す発言が目に余っていた。とっても良い人で話が終わるなら、良い人物像しか話さないはずなのに、後からその人の悪口をネチネチ言う。とっても良い人ならば、何故後から愚痴るのか。口論になるのか?以前、あまりにも不快だから、思い切りその矛盾を突っ込んでやったら、「彼は良い人だけど、組織運営が良くないだけなんだよね」と言い訳をしてきた。要するに、他人の悪口ばかり言う人だと私に思われたくないという心理が働いているが故の誤魔化し発言なのだろう。

 

そうした上部の取り繕いを必死でやろうとする態度が私は大嫌いだった。

 

私なりに、最悪な人間関係の対策法や、前部署でのキャリア構築法を愚痴を交えながら、ポイントを掻い摘んで伝えたのに、全否定して終わらせるのは、あまりにも失礼すぎやしないか。

 

また、ファミレスの会話の中で、同僚は言葉の端々で自分は入院するほど病弱ではないとか、私がワイン好きであることを逆手にとって、アルコール飲めない人生なんて悲惨だとか、棘のある言葉を発することが引っかかった。ちなみにアルコールはすでに解禁している。自主規制しているだけだ。また、自分は絶対に病気なんかしないと言えるうちが花だと釘だけは刺しておいた。

 

絶縁した旧友同様、自分に悪意を向ける発言をしてきた奴には、その場ではポーカーフェイスを装い、黙ってシカトしたり、Facebookのフォローを外すのが私のやり方だ。同僚とは、金輪際、業務以外の会話はしない方針にした。彼女は、私の何かが気に入らないのだと思う。憶測ではあるが、私はかれこれワインと花の趣味を始めて2年経過し、対象に飽きたり、不平不満を他人にぶつけるなどのブレがない。体験レッスンなどで、全く相性の合わないクソ過ぎる講師や受講生には遭遇してきたが、取捨選択や試行錯誤を繰り返しながら、自分と相性の良いレッスンや講師を選別してきた。恐らく、私のそういうスタンスが、同僚は気に入らなかったのかも知れない。

 

現在の部署も、趣味同様、試行錯誤を繰り返しながら、自分なりに部署に馴染むやり方を確立していくべきなのかも知れない。自分も反省すべき点は多々ある。

 

同僚は確かに能力的には優秀な部類に入るだろう。しかし、欺瞞の強い露悪的な発言は、信頼を損なう。異動先の部署では、そのような態度は慎んでもらえれば、と願う。